昨今、AIブームによるメモリ需要の高まりによって、メモリ不足が続いています。
その結果、メモリ価格の高騰が続いており、パソコンやスマートフォンなどの価格にも影響を及ぼしています。
このメモリ不足はいつまで続くのでしょうか?メモリ価格の高騰はいつ落ち着くのでしょうか?
この記事ではメモリ不足の原因やメモリ不足がいつ解消されるのか解説します。
メモリ不足とは?
ここでいう「メモリ不足」とは、パソコンやスマートフォンのRAM容量が足りないという意味ではありません。
メモリ半導体の需要に対して供給が追いつかず、価格上昇や供給逼迫が起きている状況を指します。
特にメモリ不足が問題となっているのが「DRAM(ディーラム)」と呼ばれるメモリです。
DRAMは、デスクトップパソコンからスマートフォン、さらにはゲーム機やデジタルカメラ、サーバー、自動車まで非常に多くの電子機器で使用されており、DRAMの不足は広範囲に及びます。
メモリ不足の原因
現在のメモリ需要急増の大きな要因の一つが、2022年のChatGPT公開をきっかけとした生成AIブームです。
AIの開発と運用には高速なデータ処理を可能とするメモリが大量に必要となるためです。
特に、「HBM(広帯域幅メモリ)」と呼ばれるDRAMをベースにした高性能なメモリの需要が急増しています。
AIデータセンター需要により、NVIDIAを始めとする多くの企業が大量のメモリを購入するようになったため、今では世界中でiPhoneを売るあのAppleさえ「メモリのお得意様ではない」と言われるほどです。
スマホやパソコンにも影響が
AIデータセンターで使われるHBMはDRAMをベースにしたメモリであり、パソコンやスマートフォンで使われる一般的なDRAMとも共通する部分があります。
そのため、メモリメーカーがAI向けHBMの生産を増やすと、その分だけ一般向けDRAMなどに割り当てられる生産能力が制限され、我々が普段使用しているパソコンやスマートフォン向けメモリの供給や価格にも影響が出る場合があります。
例えば、Appleは2026年6月にiPadやMacBookなどを値上げしています。MicrosoftもSurfaceやXboxを値上げしています。
メーカーの努力も追いつかず
メモリメーカーは、高まる需要に応えるため、工場の新設計画などを進め、生産能力の増強を図っています。
例えば、韓国のメモリメーカーであるSKハイニックスは、ソウルに新設する工場の稼働を当初より前倒しする予定です。
また、米国のメモリメーカーであるマイクロンは、2026年3月に台湾にある工場を買収しました。工場を新設するには数年単位の時間がかかるので、既存の工場を買収して活用する戦略です。さらに、同年7月には日本の広島にある同社の工場に総額1兆5,000億円を投じて、新しい製造拠点(クリーンルーム)の建設を始めました。
しかし、こうした生産能力の増強には時間がかかり、高まるメモリ需要には追い付いていません。
サーバーなど法人向け製品を製造・開発するHPE(ヒューレット・パッカード・エンタープライズ)のマリー・マイヤーズ最高財務責任者(CFO)は、ロイターとのインタビューで、供給は依然として行き詰まっており、主なボトルネックはメモリであると説明しています。大手企業でさえ容易にメモリを入手できない状況であることが伺えます。
なぜメモリ不足が解消できないのか?
「メモリが足りないなら、メーカーがたくさん作ればいいのでは?」
そう思う方も多いでしょう。筆者も最初はそう考えていました。
しかし、メモリの増産は簡単ではありません。その主な理由は以下の3つです。
- 主要なメモリメーカーが限られている
- メモリメーカーの選択と集中
- メモリ業界特有のメモリサイクル
それぞれ詳しく解説します。
1. 主要なメモリメーカーが限られている
メモリを生産できる企業はそう多くありません。
メモリ市場は、以下の世界3大メモリメーカーによって支配されています。
- Samsung Electronics (サムスン電子)
- SK Hynix(SKハイニックス)
- Micron Technology(マイクロンテクノロジー)
これら3社でメモリ市場(DRAM)の約9割を占めています。
メモリの製造には、大規模な工場やクリーンルーム、製造装置、そして高度な技術が必要です。
そのため、他社が容易に参入できる分野ではありません。「サムスンのメモリは売り切れだから自社で作ろう!」といった選択肢を取るのは簡単ではないのです。
近年は中国のメモリメーカーであるCXMT(ChangXin Memory Technologies)が頭角を現しており、3大メモリメーカーに迫る勢いですが、残念ながら即座にメモリ不足を解消できるほどの力はありません。
こうした最先端のメモリ(DRAM・HBM)を大量生産できるメーカーが非常に限られていることが、メモリ不足が起きている理由の1つです。
2. メモリメーカーの生産能力の振り分け
メモリメーカーはこれまで様々なメモリを開発・製造していました。
しかし、AIブームが起きてからは、生産能力を利益率が高いAIデータセンター向けのメモリ(HBM)に振り向け、一般ユーザーが使用するスマートフォンやパソコン向けメモリ(DRAM)の生産を相対的に減らす企業が出てきました。
例えば、マイクロンはAIデータセンター向け製品の需要急増に対応するため、消費者向けブランドであるCrucialの終了を2025年12月に発表しました。
マイクロン・テクノロジーは日本時間12月4日、同社の消費者向けメモリおよびストレージ製品ブランドである「Crucial(クルーシャル)」の事業から撤退する方針を明らかにした。
この決定の最大の要因は、昨今の急速なAI普及に伴い、データセンター向けのメモリやストレージ需要が爆発的に拡大していることにある。同社は限られた生産能力と経営資源を、より需要が急増し成長著しい企業向け分野へ集中させるため、一般市場からの撤退という大きな決断を下した。
メモリメーカーが限られた生産能力を収益性の高い製品へ振り向けていること。これがAIデータセンター向けのメモリ需要急増が、パソコンやスマートフォン向けメモリの供給にも影響が出ている理由の1つです。
3. メモリ業界特有のメモリサイクル
メモリメーカーは、需要が増えたからといって簡単に生産量を増やせるわけではありません。
なぜなら、メモリ業界が周期的に好況と不況を繰り返してきたためです。
世界3大メモリメーカーのサムスン、SKハイニックス、マイクロンも例外ではなく、過去に何度も大きな業績の変動を繰り返しています。
近年の例では、スマートフォンの普及やコロナウイルスによる在宅需要でメモリ需要が高まりました。その後、コロナが落ち着くと、メモリ需要も落ち着き、メモリ企業は一転して苦しい状況に陥りました。
マイクロンも、2023年度は49.4%減、2024年度は61.6%増という売上高の激しい増減を経験した企業です(会計年度であり、暦とは異なります)。
メモリを生産するには材料と装置を用意し、大掛かりな工場を作らなければなりません。
需要を読み違えれば、設備投資を行って増産した直後に供給過剰となり、再び大幅な赤字に陥る可能性があります。
そのため、メモリメーカーはAIブームにおける現在の需要だけを見て、安易に生産能力を増やすことはできないのです。
メモリ不足はいつ解消するのか?
メモリ不足に対して、メーカーの関係者もコメントをしています。
韓国のメモリメーカーであるSK Hynixを傘下に持つSKグループのチェ・テウォン会長は2026年3月16日、人工知能(AI)による需要が供給を上回り続けていることから、世界的な半導体ウェハーの不足は2030年頃まで続く可能性が高いと述べました。
また、SK HynixのCEOであるクァク・ノジョン氏も、現在のメモリー半導体の供給不足が2030年末まで続くとの見通しを示しています。
同じく韓国の大手半導体メーカーであるサムスンは、2026年7月30日に同社の第2四半期決算説明会にて、2027年までにメモリ不足が解消する見込みはないとの見解を示しました。
ただし、これらはメーカーや経営者による現時点での見通しであり、2030年までメモリ不足が続くことが確定したわけではありません。AI需要の伸びや新工場の稼働、メモリメーカーの生産計画によって状況は変わる可能性があります。
また、メモリ不足が解消したとしても、メモリ価格がすぐに以前の水準まで下がるとは限りません。
まとめ
AIブームによって、メモリ需要が急増し、世界的なメモリ不足が発生しています。
メモリ不足が続くと、メモリ価格の上昇を通じて、スマートフォンやパソコンの価格にも影響する場合があります。AI開発企業や半導体業界だけでなく、我々一般ユーザーにとっても、メモリ不足は無視できない問題になっていくのかもしれません。