トラブルが発生した際、そのトラブルの根本的な原因を突き止めるために使われる「5回のなぜ」を紹介します。
「5回のなぜ」とは?
「5回のなぜ」は体系的な問題解決方法として、トヨタ生産方式の父である大野耐一氏が開発しました。
これは別名「なぜなぜ分析」とも呼ばれ、名前の通り、トラブルに対して「なぜ?」と繰り返し考えることで、問題の根本的な原因を追究する問題分析の手法です。
大野耐一氏は自身の著書で次のように説明しています。
何か問題に直面したとき、立ち止まって「なぜ」を5回くり返してみたことはあるだろうか。これは言うは易く行うは難しだ。たとえば機械がおかしくなったとしよう。
1 なぜ、この機械は止まったのか?──過負荷になってヒューズが飛んだからだ。
2 なぜ、過負荷が起きたのか?──軸受け部の潤滑が十分ではなかったからだ。
3 なぜ、潤滑が十分ではないのか?──潤滑ポンプが十分に働いていないからだ。
4 なぜ、ポンプが十分に働かないのか?──ポンプの軸が摩耗してがたがたになったからだ。
5 なぜ、軸が摩耗したのか?──濾過器がないので切粉がはいったからだ。このように「なぜ」を5回くり返すと真因をみつけて正すことができる。追求が中途半端だとヒューズやポンプ軸の交換で終わってしまう。その場合、数カ月で問題が再発する。トヨタ生産方式も、実は、この科学的アプローチの実践と展開によって作られたものだ。5回の「なぜ」を自問自答すれば、表面的な症状の裏に隠れた真因をつかむことができる。
「5回のなぜ」は目先の問題を解決して終わるのではなく、問題を掘り下げ、問題のより根本的な原因を突き止める上で役立つ考え方です。
技術的に見える問題も、その根底には人的問題が隠れている
5回のなぜの特徴はただ「問題の根本的な原因を追究できる」というだけではありません。「技術的に見える問題も、その根底には人的問題が隠れている」と仮定しているのが大きな特徴です。
例えば、上記の例でいえば、ただ「ヒューズが飛んだ(≒機械が壊れた)」で終わるのではなく、「濾過機がないから(≒人間が濾過機を用意しなかったから)」という働く人間に問題の原因がある事に気付く事ができます。
壊れた機械や問題に衝突した個人ではなく、人間的な経営上の問題である事に気付けるということです。
失敗事例「5回のだれ」
問題解決法として「5回のなぜ」を導入した際に陥りやすい失敗が「5回のだれ」というものです。
先の項目では「技術的に見える問題も、その根底には人的問題が隠れている」という話をしましたが、ここでいう”人的問題”というのは、特定の誰かが悪さをしているという話では無く、人間による経営の問題という事です。
つまり、問題の根本的な原因は人やモノではなく、組織や環境といった”仕組み”にあるという考え方です。
この点を意識せずに「5回のなぜ」を実行すると、いつの間にか「5回のだれ」に変わってしまい、「問題の根本的な原因を起こしているのは誰だ?」と”犯人探し”に変わってしまいます。
キーエンスのオウンドメディア「ものづくりの現場トピックス」では、この点が分かりやすく解説されています。
なぜなぜ分析が個人に対する責任追及で終わってしまうケースも多くあります。
たとえば、「Aさんが標準作業を守らず機械に不具合が発生した」という問題事象を分析します。そこで導き出された分析が、担当者が気づかなかったから・疲れていたから・前日に眠れなかったからなどでは、組織的な再発防止策につながりません。
担当者ではなく、担当者がミスに気づくことができない現場の仕組みに注目し、客観的な分析を重ねることが大切です。
起業や新規事業の立ち上げについて書かれた本「リーン・スタートアップ」では、より厳しくこう書かれています。
誰かを非難する声が上がったら、その場にいる一番えらい人が「ミスが起きたら、そういうミスが簡単に起きる状況を作った全員の責任だ」と釘を刺すべきだ。5回のなぜでは、できるかぎりシステムレベルで物事を考えなければならない。
まとめ
「5回のなぜ」はトヨタのような大企業から、スタートアップのような小さいビジネスに至るまで、さまざまな現場で利用できる考え方です。
目先の問題に囚われず、問題を根本から改善するために、「5回のなぜ」を活用してみてはいかがでしょうか?