アメリカ人が「チップ文化は手に負えない」と感じている3つの理由

アメリカ社会にはチップ文化が深く根付いています

しかし、近年のアメリカでは「チップ文化は行き過ぎている」という声が非常に増えています

米金融情報会社のバンクレートによる2025年の調査によれば、「チップ文化が手に負えなくなっている」と考えているアメリカ人は41%でした。

さらに、個人向け金融情報サイトWalletHubが行った調査では、アメリカ人の10人に9人が「チップは手に余るものになった」と考えていることが明らかになっています。

なぜアメリカではチップ文化に限界を感じている人が増えているのか?その背景を解説します。

チップ文化が行き過ぎていると言われる理由

チップ文化が行き過ぎていると言われる理由はいくつかあります。

1. チップを求められる場面が増えている。

近年、アメリカではチップを求められる場面が非常に増えています。

米国のシンクタンクであるPew Researchの世論調査によれば、72%の人が、5年前よりも多くの場所でチップの支払いが求められるようになったと回答しています

これまでチップを求められるのはレストランやタクシー、ホテルなどサービス業の一部に限られていました。

ですが、近年はセルフレジやキャッシュレス決済の普及によりファストフード店やコーヒーショップなど従来ではチップが不要だった場面でも求められるようになっています。

セルフレジやキャッシュレス決済の端末が、自動的にチップを支払うよう促す為です(時には請求額の30%を求めてくることも)。

支払をする為に端末を操作していると、「チップを上乗せしますか?」という「選択式チップ支払画面」が標準で表示されるのです

特に困惑を生んでいるのが、デジタル決済の機器だ。タッチパネル式で、クレジットカードやデビットカードなど支払い方法を選んだ後、「15%」「20%」「25%」「額を選ぶ」「チップなし」といった選択肢が画面に表示される。

コーヒー店やファストフード店など従来はチップが不要だった飲食店でも、こうした機器が導入された結果、チップを求められることになった。「チップなし」も選べるが、目の前に店員がいる状況で客には心理的圧力がかかる。バンクレートの調査では、34%が「チップを選ぶ画面がうっとうしい」と回答した。

出典:チップ、どこまで払えば…米国でも増す悩み 「手に負えない」批判も | 毎日新聞

「人々はチップの選択肢を標準的な金額の目安として捉え、その範囲内でチップを支払わなければならないと感じている。だから、チップを多く要求すればするほど、得られる金額も増えるのだ」と、コーネル大学ホテル経営学部の消費者行動・マーケティング教授のマイク・リン氏は述べています

チップの支払いは拒否する事もできますが、小銭がなければ簡単に無視できるチップ入れとは異なり、端末の画面上に表示されるチップの要求は社会的圧力を生み出し、無視するのがより困難になる可能性があると専門家は言います

実際、旅人ライターの方もASCIIのコラムでこう述べています。

店員さんの目の前で「No Tip」は心理的に押しにくいですよね……。

ASCII.jp:「枕元に数ドル」は昔の話 チップもキャッシュレス時代です

また、中にはリンゴ狩りの予約をしたら、10~20%のチップを渡すように言われたという事例も。

店員さんに何かしてもらった訳でもなく、自分で果物を木からとるのにチップを求められたら困惑しますよね。

関連記事:米スタバが導入したクレジットカードのチップ支払い機能に客からは不満の声

2. チップの金額が増えている

アメリカでは全国的にチップの金額が増加傾向にあります

1950年代には、請求額の10%をチップとして支払うのが一般的でした。

1970年代から1980年代にはそれが15%にまで跳ね上がりました。

2023年、人々が支払うチップは請求額の15%から25%にまで上がっています。

これに加え、昨今の物価高により、チップの相場は以前よりも上がっています

一般的に、チップは商品やサービスの合計金額の一定割合に基づいて決まるため、商品やサービスの価格が上昇すると、チップの金額も当然増加します。

こうした現象は「チップ」と「インフレーション」を掛けて「チップフレーション」と呼ばれています。

英語では「Tipflation」と綴ります。

バンクレートのシニア業界アナリストであるテッド・ロスマン氏は、「チップは隠れた税金と化している」と指摘しています

3. コロナの流行

チップフレーションが起こっている背景には、2020年に発生した新型コロナウイルスの世界的な流行があります。

コロナ渦で感染リスクを負いながら働くサービス業従事者を応援する気持ちが、チップの相場上昇をけん引しました。

アメリカの公共放送であるNPRは、パンデミックのさなかにも働きに出る人々に感謝の意を示そうとの人々の思いが、チップの増額や支払う場面の増加につながったと報じています

コラムニストのジーン・マークス氏はThe Guardianのコラムで、「大変な状況で仕事をしているサービス業従事者を応援したいという思いも(チップ文化の)事態を一段と深刻化させた」と述べています。

決済サービスを提供するSquareによると、パンデミックが始まる直前の2020年2月、特に飲食業界では、チップが支払われた決済の割合は43.4%でした。2023年2月にはその割合は74.5%となりました。

まとめ

アメリカではチップの相場が上昇し、さらにこれまではチップの支払いが不要だった場所でもチップを求められる「チップフレーション」が問題になっています。

多くのアメリカ人が自国のチップ文化は手に負えないものになっていると考え、チップ疲れを感じている人も多い様子。

事実、チップは本来、優れたサービスへの感謝の気持ちであるはずですが、調査によると、大多数の人は社会的なプレッシャーによってチップを払う動機が強いことが分かっています。チップを支払わなければ、罪悪感を感じるという訳です。

店員が目の前に立って見守りながら待っているときに、チップを渡さないというのは難しいものです。

出典:Vox

チップはこれまでも度々問題になっていましたが、廃止には至りませんでした。

今後、アメリカのチップ文化はどうなるのでしょうか?まだまだ混乱は続きそうです。

参考