母親の子殺しは罪が軽い?被害者が新生児だと8割以上が執行猶予に

母親が子供(実子)を殺したニュースを見ていて、「殺人なのにとても罪が軽い」と思った事はありませんか?

もしあるなら、その感覚は間違っていないかもしれません。

実は、女性による殺人の中でも、自分の子供を殺した場合(いわゆる子殺し)は特に罪が軽くなる傾向にあり、執行猶予がつくケースも珍しくありません。

この記事では、女性による殺人についての論文「女性による殺人罪の量刑の変化」から、女性による子殺しに関する情報を紹介します。

※論文は2008年に公開されたものです。現在とは状況が異なっている可能性があります。ご了承ください。

女性による子殺しの量刑

以下が女性の殺人事件における量刑です(水色の線で囲まれた範囲が被害者が実子のケース)。

女性の殺人事件における被害者別の量刑分布グラフ
画像:専修大学学術機関リポジトリ:SI-Box、水色の枠線は筆者によるもの

平成初期の少し古いデータになりますが、被害者が新生児(生後4週間までの子供)の場合の執行猶予率は83.3%となっています。

右側の「懲役・実刑」の項目を見ると、仮に実刑判決が下った場合も、10年以上の懲役にはならないことが分かります。

論文では、女性の実子殺しは被害者(子供)が幼ければ幼いほど罪が軽くなる傾向にあると記されています。

実子殺については,すべてのカテゴリーが軽減的方向に評価されているという点では共通するが,その機能は実子が幼いほど強く,子が成長するにつれてその軽減的評価は弱まっていく

出典:女性による殺人罪の量刑の変化

母親の子殺しは執行猶予?

なぜ人を殺しているのに罪が軽いのか?

その理由の1つに、母親による子殺しの中でも、出産直後によるものは「嬰児殺(えいじさつ)」と呼ばれ、特別に扱われてきたという点があげられます。

母親による赤ん坊殺しのうち、一定のものは嬰児殺と呼ばれて特別な取扱いがされてきました。

嬰児殺というのは、未婚の母が私生児を出産、その直後に殺害してしまったとか、育児に自信をなくした母親が産後の不安定な時期において発作的に幼いわが子を殺してしまったケースなどで、嬰児とは0歳児のことを指しています。これは、どこの国でも、殺人罪の中で特別に軽く扱われてきたという特殊な歴史的経緯があります。

日本でも、これまでは、嬰児殺は執行猶予が原則とされてきました。

出典:育児ノイローゼで生後4か月の長男を絞殺→懲役3年、執行猶予4年(幻冬舎)

南部さおり氏らが2011年に発表した論文でも、先行研究の内容として、実子に対する殺人には通常の殺人より軽い判決が下される傾向にあることが紹介されています(以下の引用は筆者による日本語訳です)。

日本の刑事裁判所が家庭内における実子殺人に対して下す判決は、一般の殺人事件に対する判決に比べて寛大である傾向があることが指摘されている。

また、同論文では、こうした傾向は加害者が女性、すなわち母親の場合にみられ、加害者が男性の場合は家庭外殺人事件とほぼ同水準だと指摘しています。

家庭内事件においては、女性加害者は男性加害者よりも寛大な扱いを受けており、男性加害者に対する量刑は、家庭外殺人事件とほぼ同水準であった。

こうした状況に関して、ライターの吉田大助氏は現代ビジネスで以下のように述べています。

子が親を殺す、俗にいう「親殺し」は、昭和後半まで通常の殺人罪よりも量刑が重かった。その後是正されたが、「子殺し」に関しては未だに、旧来の陋習が残っているのかもしれない。通常の殺人よりも、量刑が軽い印象は拭えない。

出典:なぜ親による子どもの虐待死の量刑は、かくも軽いのか(現代ビジネス)

裁判では過去の裁判例や量刑傾向も考慮されるため、このような評価の枠組みが一定程度継続してきた可能性があります。

虐待全般に甘い?

子殺しだけでなく、日本では親による子どもへの加害全般(いわゆる虐待)についても、海外と比較して刑罰が軽いと指摘する研究者もいます。

国際政治学者の六辻彰二(むつじしょうじ)氏は、日本では児童虐待に対する刑罰が欧米諸国と比べて軽い傾向があると指摘しています。

現在の日本の法律は、他の先進国と比較して、理不尽な親から子どもを守るうえで十分ではありません。虐待する親に甘い法律は、「親の躾」や「家庭の不可侵」を重視する思考に支えられているといえます。

(中略)

日本の場合、深刻な事態に至る前の段階での刑罰が軽い傾向があります。

児童虐待防止法では、虐待の恐れがある場合、子どもに親が付きまとうことを都道府県知事が禁止でき、違反者には1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。しかし、それ以外の罰則は同法では定められておらず、身体的な暴行などは一般の暴行罪などが適用されます。また、育児放棄などの児童虐待そのものへの刑罰もありません。

これに対して、欧米諸国では死に至る前の段階から、虐待には厳しい刑罰が待っています。

出典:欧米諸国と日本の児童虐待に関する刑罰の比較―児童虐待に甘い国はなぜ生まれるか

他国と比べ、日本では殺人(子殺し)に限らず、児童虐待に対する刑罰が軽い傾向にあるようです。

このような量刑を巡る考え方は、司法だけでなく市民による署名活動にも見られます。

署名サイトのChange.orgでは、子を虐待死させた母親に対して、罪を軽くし、残りの兄弟の子育てをさせるよう署名活動も行われました。

豊田市のみつご虐待死事件で、3年6ヶ月の実刑判決が出ました。(2018年1月11日、三つ子の次男を脳挫傷で死なせてしまうという事件です。)

虐待死は許されることではありません。でも、3年6ヶ月は長すぎます。残った二人のお子さんは乳児院に預けられているそうです。服役を終えて出てきた時、二人のお子さんは5歳半です。11ヶ月から5歳半まで乳児院で母親に会えずに過ごすことになります。彼女にとっては、残った2人の子どもに向き合って育てながら罪を償うほうがいいと思います。

だから、実刑判決ではなく、執行猶予付きの判決を求めます。

出典:キャンペーン · 豊田市のみつご虐待死事件の母親が子育てしながら罪を償えるように、執行猶予を求めます!(Change.org)

こうした署名活動が起こる状況を鑑みると、日本では母親による虐待や殺人の量刑は軽くすべきだと考える方も少なくないのかもしれません。

まとめ

日本では母親による虐待死や嬰児殺に対して、執行猶予が付くことは珍しくありません。

ですので、ニュースを見て「子殺しの量刑、軽すぎない?」と感じたことがある方は、その感覚、案外間違っていないのかもしれません。

しかし、母親による児童虐待や嬰児殺の量刑を体系的に分析した研究は多くありません。

一方で、これまで十分に注目されてこなかった女性が加害者となる問題については、近年少しずつ研究や社会的関心が高まりつつあります。例えば、女性から男性へのDV(男性のDV被害)も、以前に比べると議論される機会が増えてきました。

母親による児童虐待や殺人についても、今後さらに研究や調査が進み、量刑の実態やその背景について、より客観的な議論が深まることが期待されます。