「ペンスルール」とは、「妻以外の女性と2人きりで過ごさない」という男性の行動規範(ルール)です。
このルールは、性的スキャンダルやセクハラ(およびそれらの冤罪)を防止するためのものです。
日本のX(Twitter)で話題になった「ハラミ会」とも似ていますが、違いも大きいです。
ペンス・ルールの由来と歴史
ペンス・ルールは、アメリカ合衆国の元副大統領であるマイク・ペンス氏の行動規範が由来です。
信心深いキリスト教徒であるペンス氏は、2002年に政治専門誌「The Hill」のインタビューで「妻以外の女性とは絶対に2人きりで食事をすることはなく、酒を飲むイベントにも妻がそばにいなければ参加しない」と語っています。
2017年には、ワシントン・ポストのペンス氏に関する記事で、この発言が取り上げられ、話題になりました。
2017年には、ペンス副大統が2002年に、「妻以外の女性と2人で食事をしないこと、そして妻がそばにいない状況では、アルコールが提供される行事には参加しないこと」を誓っていたことが明らかになり、大きく報じられた。
元祖は”ビリー・グラハム・ルール”
ペンス・ルールの元となっているのは「ビリー・グラハム・ルール」です。
ビリー・グラハム・ルールとは、世界的に有名なキリスト教福音派の伝道師、ビリー・グラハム牧師(1918年 – 2018年)が定めた行動規範(ルール)の事です。
グラハム氏は、伝道師として活動していくにあたって、金、性、権力の濫用が疑われたり、実際に起こったりしないように、いくつかの行動規範を仲間と定める事にしました。
行動規範には複数のルールがありますが、その中で最も有名なルールが、性的スキャンダルを回避する為の「妻以外の女性とは2人きりにならない」というルールです。
グラハム氏は映画出演のオファーが何度も来るほどの美貌(いわゆる”イケメン”)でしたが、このルールを徹底する事で、スキャンダルに見舞われる事もなく、世間からその健全さが称賛されました。
現在でも、アメリカでは「男性が妻以外の女性と2人きりにならない」ことをペンス・ルールではなく、ビリー・グラハム・ルール(Billy Graham rule)と呼ぶことがあります。
ちなみに、この行動規範は、カリフォルニア州モデストで定められたため、「モデスト・マニフェスト」と呼ばれることもあります。
MeToo運動で再注目
ペンス・ルールは、2017年に女性達がセクハラや性暴力の被害経験をSNS上で告白・告発する「#MeToo運動」が大きな話題になったことで注目されました。
MeToo運動の大きな盛り上がりを受け、世の男性たちは、自分の振る舞いを省みました。
しかし、女性がセクハラと感じる基準は人それぞれな上に、環境や状況、相手との関係性によっても変わります。
その上、告発されれば弁解の余地もなく批判に晒され、職や地位を失うことから、男性たちの間で”セクハラ対策”としてペンスルールが注目されました。
2018年にはウォール街の男性がセクハラ防止としてペンス・ルール(と同様のルール)を採用していると経済系通信社であるBloombergが報じています。
女性の同僚と夕食を共にするな。飛行機では隣り合わせで座るな。ホテルの部屋は違う階に取れ。1対1で会うな。これらが近頃のウォール街で働く男性の新ルールだ。
こうした流れはアメリカ合衆国に止まりません。
韓国でも同様の動きがあります。
3月7日、韓国ポータルサイト「NAVER」の急上昇ワードに、突如として「ペンスルール」というワードが上がってきた。
「ペンスルール」は、アメリカ副大統領のマイク・ペンス氏が2002年のインタビューで言及したもの。「妻以外の女性とは絶対に2人きりで食事しない」というルールだ。
セクハラなどを事前に防ぐため、妻以外の女性と交流しないのだという。
韓国全体で「MeToo」が盛り上がる中で、この「ペンスルール」が注目されている。
「女性と関わらなければ、間違いは起こらない」
シンプルでありながら最強のセクハラ防止策と言えるでしょう。
ペンス・ルールの問題点
セクハラ対策・性暴力対策(そしてそれらの冤罪対策)として強力なペンス・ルールですが、問題点が存在しない訳ではありません。
妻以外の女性を避ける為、男女2人きりで仕事をする事が出来なくなり、仕事に支障が出るという声も出ています。
例えば、2019年にはアメリカ合衆国で女性記者の密着取材をペンス・ルールを理由に拒否した男性議員が注目されました。
共和党のロバート・フォスター同州下院議員(36)が、選挙活動の同行取材を希望する地元メディアからの申し入れを、担当記者が女性だという理由で拒絶していたことが、9日わかった。妻以外の女性と2人きりにはならないと決めていると言い、男性スタッフを同行させない限り応じられないとしている。
(中略)
フォスター議員はツイッターで、「妻と私は、我々の結婚生活に疑念を生じさせたり、損なわせる恐れのある、いかなる状況も回避するという、『ビリー・グレアム・ルール』に従うという誓いを立てた。このような考え方をしていないキャンベルさんには申し訳ないが、私の決断は妻への敬意を表してのものだ」と説明した。
ペンスルールはセクハラ対策や誠実な行動として評価する声がある一方で、男女二人で仕事をする機会が失われるという意見もあるという事です。
ハラミ会との違い
日本では、同様の概念として「ハラミ会」があります。
これは、漫画家である瀧波ユカリ氏の著書「モトカレマニア」の第2話に登場する飲み会の事です。
飲み会で、知らず知らずのうちにセクハラをしてしまった男性たちが、「ハラスメントを未然に防ぐ」ために男だけで飲む会、略して「ハラミ会」がネット上で話題になっている。
ペンスルールと似た概念ですが、違いもあります。
大きな違いは以下の2点です。
- フィクションである
- 飲み会に限った話である
ペンスルールが実際に男性達が自分達の行動規範として作ったルールであるのに対し、ハラミ会は漫画家が漫画内で描いた男性の言動(フィクション)です。
著者自身もX(Twitter)で「フィクションです!」と述べています。
ハラミ会を実際に行う(行っていた)男性もいると思いますが、ハラミ会はあくまで架空の概念です。
また、ペンスルールが公私を問わず生涯にわたって行うルールであるのに対し、ハラミ会は「仕事後の飲み会でセクハラを回避するために男子だけで飲む」という極めて限定的行為を指しています。ルールではありません。
つまり、ペンスルールは男性の行動規範であり、ハラミ会は漫画のワンシーンなのです。
「男性のセクハラ防止策」という共通点がありますが、似て非なるものであり、相当する概念では無いと言えるでしょう。
まとめ
ペンスルールは決して前向きな問題解決策ではないでしょう。
しかし、セクハラや性暴力を避けたい女性と冤罪やスキャンダルを避けたい男性の利害が一致していますから、今後も一定の支持を得ると思います。