アメリカではチップの文化・習慣が深く根付いており、ホテルやレストラン、タクシーなど様々な場面でチップを払う必要があります。
一方で、どこでもチップが必要という訳では無く、飲食店であってもファストフード店などではチップの支払いは不要です。
しかし、近年のアメリカではチップを要求される場面が増えています。
その原因はキャッシュレス決済です。
キャッシュレス決済の普及でチップが常に求められる?
近年、アメリカではキャッシュレス決済の普及によって、これまではチップが不要だったファストフード店やスポーツ用品店、はては住宅ローンの会社からもチップが要求されるようになっています。
さらには顧客が自分で手続きを行うセルフレジでもチップが要求されます。
これは、キャッシュレス決済のメニューに、チップのオプションが用意されている為です。
特に困惑を生んでいるのが、デジタル決済の機器だ。タッチパネル式で、クレジットカードやデビットカードなど支払い方法を選んだ後、「15%」「20%」「25%」「額を選ぶ」「チップなし」といった選択肢が画面に表示される。
コーヒー店やファストフード店など従来はチップが不要だった飲食店でも、こうした機器が導入された結果、チップを求められることになった。「チップなし」も選べるが、目の前に店員がいる状況で客には心理的圧力がかかる。バンクレートの調査では、34%が「チップを選ぶ画面がうっとうしい」と回答した。
こうしたチップの選択画面は、2020年頃まではまだ少数派でしたが、今では全米どこでも見かけるものになっているとビジネス系メディアのForbesは論じています。
フリーアナウンサーの渋佐和佳奈氏もシカゴで過ごした際にキャッシュレス決済端末でチップを要求された体験を記しています。
アメリカはキャッシュレス大国。現在はカフェやドーナッツ店、ファストフード店など、いわゆるカウンター越しの店員に支払いをして商品を受け取るスタイルの店のレジのほとんどに、タブレットが導入されています。
これまでは店員から商品の購入金額を告げられて、タブレットにクレジットカードをピッとかざし、レシートと商品を受け取り、「Thank you! Have a good day!」と笑顔でやりとりを終えられました。カフェやドーナッツ店、ファストフード店の支払い時は、必ずしもチップが必要な場面ではなかったのです。しかし今ではタブレット画面が容赦なく「Add a Tip?(チップを加えますか?)」と提案してくるようになりました。こうした現象は、なんと無人のドライブスルーやセルフレジでも起こっているのだとか……!
また、こうしたチップ選択画面には店側が望む選択肢(チップを多く支払うボタン)を強調し、望まない選択肢(チップを支払わないボタン)を目立たなく設定する傾向があります。
デザインで利用者にチップを払うように誘導している(いわゆるダークパターン)という訳です。
アメリカ人のチップ疲れ
もちろん、チップを支払わないという選択肢もあるのですが、簡単に無視できる従来のチップとは違い、キャッシュレス決済でのチップの要求は消費者へのプレッシャーとなる為、チップの要求を無視することは難しいとのこと。
ソフトウェア・アドバイスの小売市場調査員であるジャスティン・ギン氏も「店員やレジ係がじっとこちらを見て、選択を待っている中で、『チップ不要』ボタンを押すのは、気まずいと感じるかもしれません。どうしても罪悪感を感じてしまうのです」とTIMEの取材で答えています。
渋佐和佳奈氏もこの点について言及しています。
これまで通りチップを払いたくなければ「No Tip」を押せばいいだけなのでは?と思う方もいらっしゃるかもしれません。私も以前はそう思っていました。この写真はちょうど店員さんが奥で商品の準備に入ったのか、チップ金額を選択する際、目の前にいませんが、ほとんどの場合は目の前にいるのです。そうすると店員さんの視線が気になり、勢いよく「No Tip」が押せない。こういうのって私だけなのかな? 日本人の気質もあるのかな?と思っていたのですが、アメリカに住む現地の人も、目の前にいる店員や後ろに並ぶ人の視線をプレッシャーに感じるそうです。
旅人ライターの中山智氏もASCIIのコラムでこう述べています。
店員さんの目の前で「No Tip」は心理的に押しにくいですよね……。
この状況に不満を抱いているのはアメリカ人も同じです。
サンフランシスコのスタートアップ企業アップティップの創業者兼CEOのエリック・プラム氏は、キャッシュレス決済の事前にチップの選択肢を表示するシステムは「人々が最も抵抗を感じるもの」であると述べています。
まとめ
Bankrateが2023年に公表したレポートによると、アメリカ人の3分の2がチップに対して否定的な見方をしており、特に事前にチップの選択肢が表示されるタッチ決済やキャッシュレス決済に関してその傾向が強いです。
こうした傾向は「チップ疲れ」とも呼ばれています。
中には、世論に応えチップの要求を抑える経営者もいるようです。
キャップテラで小売・レストランを担当するシニアアナリストのモリー・バーク氏によると、ネガティブな感情が広まるにつれ、ジェームズ氏のような経営者が、顧客をなだめるためにチップの提示額を減らしたり、チップの要求を完全になくしたりするケースが増える可能性があるという。
「中小企業はチップ画面を無効にしたり、チップ画面に表示される金額をカスタマイズしたり、顧客にチップ画面をスキップするよう依頼したりすることもできます」と彼女は述べた。
出典:‘Tipping culture is out of control’ — even some businesses agree
しかし、こうした経営者は少数派のようで、アメリカにおけるチップ制度の拡大はとどまる所を知りません。
チップ文化の混乱はまだまだ続きそうです。