DV(家庭内暴力)と聞くと、「男性から女性への暴力」「男性が加害者、女性が被害者」という印象を抱く方が多いのではないでしょうか?
しかし、実は男性のDV被害者も少なくありません。全国的に年々、男性からの相談件数は増えています。
令和4年版の男女共同参画白書によると、男性の約5人に1人が配偶者から暴力を受けたことがあるといいます(ちなみに女性は約4人に1人です)。
この記事では、そんな男性のDV被害について、実態や問題点を解説していきます。
DV被害の実態
男性のDV被害とはどのようなものでしょうか?
「女性が男性に暴力を振るうなど想像できない」という方もいるかもしれません。
しかし、DVやストーカー問題に取り組むNPO法人「女性・人権支援センター ステップ」の栗原加代美理事長は「たたかれたり、物を投げられたり、罵倒されたり、女性同様の被害に遭っている」と述べています。
DV被害は急増。約20年で170倍?
男性のDV被害は急増しています。
全国の都道府県警が受理した男性からの相談件数は、5年前の約1.5倍、約20年前の170倍に増えています。
警察庁のデータによると、パートナーからDV被害を受けたとの相談件数は、令和5年は8万8619件で、男性からの相談はうち27・9%となる2万4684件。いずれも過去最多だった。
相談体制の整備や被害者保護などを目的とした「配偶者暴力防止法」が平成13年に施行。翌14年の男性からの相談は142件に過ぎず、およそ20年で170倍超にまで膨らんだ計算になる。
DV問題に携わる警察幹部は「昔は女性ばかりが被害者だったが、今は夫婦で殴り合ったり、男性が一方的に暴力を振るわれたりする例もある。丁寧に話を聞かなければ構図が判然としないことも多い」と語っています。
ただし、これは「男性のDV被害が増えた」のではなく、「男性のDV被害が表面化した」という可能性もあります。
事実、2014年の段階でも女性の19.1%が交際相手からデートDVを受けたことがあるのに対し、男性は10.6%がデートDV被害の経験があると内閣府の調査で判明しており、以前から男性被害者は少なくなかった事が分かります。
DV被害者は男性の方が多い?
内閣府男女共同参画局が2023年度の調査では、過去1年間にDV被害を受けた人は女性が42.6%なのに対し、男性50.3%と半数を超えています。
また、過去に大阪の高校生を対象に行ったアンケートでは、暴言や暴力の被害者は、女子より男子のほうが圧倒的に多かったといいます。
「男女関係で男が威張るなど遠い昔の話で、いまや『モンスター彼女』が当たり前。一つの原因は男子の草食化。彼らは自分が我を通してケンカになるよりも彼女にやられるままにしておくほうがいい、と考える傾向にあり、女子は気軽に男子を殴り、草食男子は黙って耐える、という構図が出来上がってしまった。LINEなど恋人の携帯を見たがるのも圧倒的に女子で、男子はそれに逆らえないのです」
多くの自殺者
DV被害を理由に自死(自殺)する方がいます。
厚生労働省の資料によると、2023年はDVに起因する自殺者が93人おり、そのうちの81人が男性でした。
また、警察庁の統計によると、2024年のDVによる自殺者数は99人で、そのうち男性がおよそ8割を占めています。
男性自身が被害を認知していない
世の中には、まだまだ「DVの被害に遭うのは女性。加害者は男性」というイメージや、「男性が女性に加害されるなんて情けない」というジェンダー規範や偏見があります。
その為、「被害者の男性自身が、DV被害を自覚できていない」というケースも少なくありません。
事実、内閣府の調査によれば、DVに遭った男性の約7割はどこにも誰にも相談しておらず、その理由として最も多いのは「相談するほどのことではないと思ったから」となっています(なお同調査によると、女性は約4割がどこにも誰にも相談していません)。
一般社団法人「白鳥の森」が支援した男性20人を対象に行ったアンケートでも、半数が被害について誰にも相談しなかったといいます。
半数に当たる10人が、被害について誰にも相談しなかったという。その背景としては「相談できる場所を知らなかった」「DVの自覚がなかった」といった理由が並んだ。
出典:気付くまで15年「妻からDVを受けていた」。エスカレートする支配と暴力、絶望の日々 世間体で相談しづらい男性たちのSOS「ベッド脇にムカデの塊」「みそ汁に下剤」― | 47NEWS
男性被害者が直面する困難
抵抗すれば加害者扱い
一般的に女性より男性の方が力が強いので、男性がDV被害を防ぐのは簡単だと思う方も多いかと思います。しかし、それが落とし穴です。
男性がDVを制止しようと手を出すと、逆にDV加害者として扱われてしまう可能性があります。
理解が乏しい
DVの実態はより複雑で、男性の被害者も決して少なくありません。
しかく、多くの男性被害者が存在するにもかかわらず、その実態は十分に理解されていないのが現状です。
徳島市でDVの被害者支援に取り組む一般社団法人「白鳥の森」の野口登志子代表理事は、共同通信の取材に対して以下のように述べています。
加害者は暴力を振るいながらも、こういうことをさせるような原因を作ったのは相手だ、と被害者意識を持っていることが多い。男性側は周囲に相談しても我慢しろと言われてしまいがちで、被害が重篤化する
なかには、被害者の男性自身が、ジェンダーバイアス(先入観)やジェンダーロール(男らしさの規範)に囚われているケースもあります。
ジョニー・デップの悲劇
世の中にはこうした風潮を悪用する女性もいます。
俳優のジョニー・デップ氏にDVを行っていたアンバー・ハード氏は、デップ氏に対してこう述べています。
ハードは「みんなに言いなさいよ。世界に言いなさい。『僕、ジョニー・デップはDVの被害者です』って。誰が信じると思う?」とデップに言っている。
「男性がDV被害に遭う」という事に対して、世間の理解が及んでいない事に対する醜悪な自信が見て取れますね。
まぁDV加害者であっても、ここまで性根の腐った女性はそう多くないでしょうが、世の中にはこうした女性もいますから、「理解が乏しい」というのは本当に大問題です。
相談窓口が少ない
男性からの相談を受け付けている窓口は、まだまだ女性と比べて少ないのが現実です。
仮に用意されていたとしても、対応時間が短い、開いている日が少ない、相談員が男性のDV被害について理解していない等、気軽に相談できる状況ではありません。
酷い場合には、相談しても逆に二次加害される場合もあります。
男性のDV被害について訴える島村和宏氏は、自身のDV被害についてこう述べています。
行政などの相談窓口では、女性相談員から加害者と決めつけられて怒鳴られたり、「そもそも男性は対応できない」と断られたりした。
出典:〝男性DV被害者〟が急増 行政の無理解でさらなる苦痛 加害者と決めつけ相談員が怒鳴ることも…相談者は「氷山の一角」 – zakzak:夕刊フジ
2024年4月には困難女性支援法が施行され、DVを受けている女性への支援はより充実しました。しかし、男性被害者への支援は乏しいままです。
シェルターが乏しい
女性の場合、相談窓口だけでなく、被害に遭った人が一時的に避難できるシェルターも多くあります。
しかし、公的なシェルターは女性用のみです。男性は民間の団体を頼るしかありません。
女性用シェルターは、一時保護所の役割も担う公営の「女性相談支援センター」が全47都道府県に設置されているほか、民間に委託されたシェルターも多数あります。
一方、共同通信の調査によると、男性用の公営シェルターを設置している都道府県はゼロです。

シェルターが無い為、男性はDVから逃げるために、車中泊やネットカフェを利用しているケースもあると報告されています。
警察は助けてくれない
警察に通報しても、男性のDV被害は理解されておらず、ただの夫婦喧嘩として片付けられたり、二次加害される事もあります。
親権を取れない
日本は単独親権なので、離婚後は片方の親が親権を取ることになります。
親権を得るのは、圧倒的に女性が有利です(例えDV加害者であっても)。
子供が両親と離れたくない場合や、残された子供が家庭内暴力の被害に遭う可能性を考え、離婚に踏み切れない男性もいます。
現状の問題点と解決策
男性のDV被害者が直面する問題点とその解決策について解説します。
政府や行政の無理解
政府や行政は、DVに関する啓発を「女性に対する暴力をなくす運動」と銘打って行うなど、男性のDV被害者を見捨てています。
DV防止法の条文も、明確に女性被害者を意識した文になっています。
配偶者からの暴力の被害者は、多くの場合女性であり、経済的自立が困難である女性に対して配偶者が暴力を加えることは、個人の尊厳を害し、男女平等の実現の妨げとなっている。
このような状況を改善し、人権の擁護と男女平等の実現を図るためには、配偶者からの暴力を防止し、被害者を保護するための施策を講ずることが必要である。このことは、女性に対する暴力を根絶しようと努めている国際社会における取組にも沿うものである。
法律自体が現状を理解していない男性差別的なものになっています。
こうした状況を改める必要があるでしょう。
自ら声を上げて活動する事は難しくても、パブリックコメントを書いたり、選挙に足を運んだり、生活の負担にならない範囲でも政府や行政に働きかける事は出来ます。
支援の欠如
DV防止法は被害者の性別を区別していないにもかかわらず、男性被害者を想定した個別施策はほぼ実施されていません。
男性のDV被害者を救う事に、行政や国は消極的です。
また、自治体などの相談窓口は対象を女性に限定していたり、男性被害者の相談を受け付けていても、名称に「女性」「子ども」と冠しているため、男性が相談しづらい傾向にあるという問題もあります。
実態が不明
男性のDV被害が急増しているのは先述通りです。
しかし、まだまだ女性のDV被害と比べて、理解されておらず、調査や統計も少なく、被害実態が明らかになっていない面もあります。
被害実態が明らかにならなければ、適切な支援や保護もできず、政府や行政が対策を考える事もできません。
より多くの人に、男性のDV被害について知ってもらう事が必要でしょう。
幸い、近年では男性のDV被害についても言及される事が増えてきています。
例えば、兵庫県の高校で行われた「人権教室」では、デートDVの例として男子学生の被害にも触れています。
デートDVの具体的な3つのケースについて映像を見せながら解説しました。高校生が“自分事”として捉えられるよう、過剰な独占欲を持っている男子高校生や、食事代を払ってもらうことを当たり前と考える女子高生などが登場するストーリー仕立てで解説しました。
こうした流れが続けば、男性被害者への偏見も無くなっていくかもしれません。
適切な証拠を用意する
あるDV被害者の男性は、被害を受けている時の録音を聞いてもらう事で、警察や弁護士に信じて貰う事ができたといいます。
「警察や弁護士に相談したが、最初は信じてもらえなかった。日記や、被害を受けているときの録音を聞いてもらって、ようやく信じてもらえた。男性のDV被害を信じてもらえる材料として、録音は重要だ」
女性のDVに悩む男性たち 暴言・暴力を相談できず、子どもも連れ去られ…ジェンダーバイアスで信じてもらえない厳しい現実 – Yahoo!ニュース
男性のDV被害は信じて貰うのが大変ですが、適切な証拠を用意する事で状況を打破できる可能性もあるという事です。
男性が勇気を出す
被害を信じて貰えない。逆に加害者扱いされる。そもそもDVの相談窓口がない…
DV被害に遭った男性が声を上げる事は、とても大変な事です。
しかし、本人が口を開かなければ周囲は何もできません。
夫婦・家族問題評論家の池内ひろ美さんは「本来、家は世界で一番安全な場所であるはず。家庭のなかのことは、被害者が声を上げなければ助けることはできない。男性も被害を訴えてほしい」と話しています。
まとめ
男性のDV被害は、女性の被害と同様、多くありますが、相談窓口や男性用シェルターは十分に整備されておらず、対応は追い付いていないのが実情です。
しかし、昔と比べると、男性のDV被害が大手メディアに取り上げられたり、男性も支援対象に含まれるケースも増えてきました。
まだまだ不十分ですが、これから少しづつ男性のDV被害者も救われる社会へと変わっていくのではないかと思います。