チップフレーションとは?アメリカ人がチップ疲れしている3つの理由

アメリカ社会にはチップ文化が深く根付いています

しかし、近年のアメリカでは「チップ文化は行き過ぎている」という声が非常に増えています

米金融情報会社のバンクレートによる2025年の調査によれば、「チップ文化が手に負えなくなっている」と考えているアメリカ人は41%でした。

さらに、個人向け金融情報サイトWalletHubが行った調査では、アメリカ人の10人に9人が「チップは手に余るものになった」と考えていることが明らかになっています。

なぜアメリカではチップ文化に限界を感じている人が増えているのか?その理由は「チップフレーション」です。

チップフレーションとは?

「チップフレーション」とは「チップ」と「インフレーション」を合わせた造語です。

英語では「Tipflation」と綴ります。

店側のチップの期待率が上昇したり、支払いを要求したりする業種が増えていること。tipにインフレを意味するinflationを組み合わせた造語。

出典:「tipflation」って一体何?アメリカのチップ文化に異変!?【ニュース英語】(ENGLISH JOURNAL)

チップフレーションにより、ラスベガスではチップだけで年間1000万円以上稼ぐ人もざらにおり、チップをもらえない管理職よりも、その部下のほうが稼ぐという逆転現象が一般化しているとラスベガス在住の対米進出コンサルタントの長野慶太氏はForbesのコラムで述べています

チップ疲れの3つの理由

チップ文化が行き過ぎていると言われる理由は3つあります。

1. チップを求められる場面が増えている。

近年、アメリカではチップを求められる場面が非常に増えています。

米国のシンクタンクであるPew Researchの世論調査によれば、72%の人が、5年前よりも多くの場所でチップの支払いが求められるようになったと回答しています

これまでチップを求められるのはレストランやタクシー、ホテルなどサービス業の一部に限られていました。

ですが、近年はセルフレジやキャッシュレス決済の普及によりファストフード店やコーヒーショップなど従来ではチップが不要だった場面でも求められるようになっています。

これはセルフレジやキャッシュレス決済の端末が、自動的にチップを支払うよう促す為です(時には請求額の30%を求めてくることも)。

チップの支払いは拒否する事もできますが、小銭がなければ簡単に無視できるチップ入れとは異なり、端末の画面上に表示されるチップの要求は社会的圧力を生み出し、無視するのがより困難になる可能性があると専門家は述べています

関連記事:アメリカ人もチップ文化にウンザリ!原因はキャッシュレス決済の普及?

2. チップの金額が増えている

アメリカでは全国的にチップの金額が増加傾向にあります

1950年代には、請求額の10%をチップとして支払うのが一般的でした。

1970年代から1980年代にはそれが15%にまで跳ね上がりました。

2000年代に入るとさらに相場がジリジリと上がって、20%が普通になりました

2023年には、人々が支払うチップは請求額の15%から25%にまで上がっています。

これに加え、昨今の物価高も、チップの相場上昇に拍車をかけています

一般的に、チップは商品やサービスの合計金額の一定割合に基づいて決まるため、商品やサービスの価格が上昇すると、チップの金額も増加するのです。

3. コロナの流行

チップフレーションが起こっている背景には、2020年に発生した新型コロナウイルスの世界的な流行があります。

コロナ禍で感染リスクを負いながら働くサービス業従事者を応援する気持ちが、チップの相場上昇をけん引しました。

アメリカの公共放送であるNPRは、パンデミックのさなかにも働きに出る人々に感謝の意を示そうとの人々の思いが、チップの増額や支払う場面の増加につながったと報じています

コラムニストのジーン・マークス氏はThe Guardianのコラムで、「大変な状況で仕事をしているサービス業従事者を応援したいという思いも(チップ文化の)事態を一段と深刻化させた」と述べています。

決済サービスを提供するSquareによると、パンデミックが始まる直前の2020年2月、特に飲食業界では、チップが支払われた決済の割合は43.4%でした。2023年2月にはその割合は74.5%となりました。

バンクレートのシニア業界アナリストであるテッド・ロスマン氏は、「チップは隠れた税金と化している」と指摘しています

チップに苦しむアメリカ人

アメリカではチップの相場が上昇し、さらにこれまではチップの支払いが不要だった場所でもチップを求められる「チップフレーション」が問題になっています。

多くのアメリカ人が自国のチップ文化は手に負えないものになっていると考えており、こうした傾向は「チップ疲れ」とも呼ばれています

「WalletHub」の調査では、約90パーセントのアメリカ人が「チップ文化は過剰化している」と回答し、過半数が「義務的にチップを払っている」と感じているという結果も出ています。

こうした世論を考慮し、チップの要求を抑える経営者も中にはいます。

キャップテラで小売・レストランを担当するシニアアナリストのモリー・バーク氏によると、ネガティブな感情が広まるにつれ、ジェームズ氏のような経営者が、顧客をなだめるためにチップの提示額を減らしたり、チップの要求を完全になくしたりするケースが増える可能性があるという。

「中小企業はチップ画面を無効にしたり、チップ画面に表示される金額をカスタマイズしたり、顧客にチップ画面をスキップするよう依頼したりすることもできます」と彼女は述べた。

出典:‘Tipping culture is out of control’ — even some businesses agree

また、従業員の稼ぐ額がチップで左右されないよう、チップを廃止しメニュー価格に上乗せしたというケースもあります。

あからさまにチップをせびることを良しとせず、独自の施策に動いた飲食店もある。USAトゥデイ紙によると一部レストランでは、「従業員が必要とするお金を稼ぐ能力が、利用客の気分に左右されることのないよう」との思いから、チップを廃止しメニュー価格に上乗せした。店舗のオーナーは、「スタッフの生活の質を向上したかったのです」と語る。

出典:無人セルフレジなのにサービス料を請求される…アメリカ人の3人に2人が嫌悪する「チップ文化」は必要か 1400円のクッキーに560円のチップを求められる(PRESIDENT)

しかし、こうした経営者は少数派のようで、アメリカにおけるチップ制度の拡大はとどまる所を知りません。

まとめ

チップはこれまでも度々問題になっていましたが、廃止には至りませんでした。

今後、アメリカのチップ文化はどうなるのでしょうか?チップ文化の混乱はまだまだ続きそうです。