アメリカ人が「チップ文化は手に負えない」と感じている3つの理由

アメリカ社会にはチップ文化が深く根付いています

しかし、近年のアメリカでは「チップ文化は行き過ぎている」という声が非常に増えています

米金融情報会社のバンクレートによる2025年の調査によれば、「チップ文化が手に負えなくなっている」と考えているアメリカ人は41%でした。

さらに、個人向け金融情報サイトWalletHubが行った調査では、アメリカ人の10人に9人が「チップは手に余るものになった」と考えていることが明らかになっています。

なぜアメリカではチップ文化に限界を感じている人が増えているのか?その背景を解説します。

チップ文化が行き過ぎていると言われる理由

チップ文化が行き過ぎていると言われる理由はいくつかあります。

1. チップを求められる場面が増えている。

近年、アメリカではチップを求められる場面が非常に増えています。

これまでチップを求められるのはレストランやタクシー、ホテルなどサービス業の一部に限られていました。

ですが、近年はセルフレジやキャッシュレス決済の普及によりファストフード店やコーヒーショップなど従来ではチップが不要だった場面でも求められるようになっています。

セルフレジやキャッシュレス決済の端末が、自動的にチップを支払うよう促す為です(時には請求額の30%を求めてくることも)。

支払をする為に端末を操作していると、「チップを上乗せしますか?」という「選択式チップ支払画面」が標準で表示されるのです

特に困惑を生んでいるのが、デジタル決済の機器だ。タッチパネル式で、クレジットカードやデビットカードなど支払い方法を選んだ後、「15%」「20%」「25%」「額を選ぶ」「チップなし」といった選択肢が画面に表示される。

コーヒー店やファストフード店など従来はチップが不要だった飲食店でも、こうした機器が導入された結果、チップを求められることになった。「チップなし」も選べるが、目の前に店員がいる状況で客には心理的圧力がかかる。バンクレートの調査では、34%が「チップを選ぶ画面がうっとうしい」と回答した。

出典:チップ、どこまで払えば…米国でも増す悩み 「手に負えない」批判も | 毎日新聞

「人々はチップの選択肢を標準的な金額の目安として捉え、その範囲内でチップを支払わなければならないと感じている。だから、チップを多く要求すればするほど、得られる金額も増えるのだ」と、コーネル大学ホテル経営学部の消費者行動・マーケティング教授のマイク・リン氏は述べています

チップの支払いは拒否する事もできますが、小銭がなければ簡単に無視できるチップ入れとは異なり、端末の画面上に表示されるチップの要求は社会的圧力を生み出し、無視するのがより困難になる可能性があると専門家は言います

例えば、米スターバックスではクレジットカード決済を利用しようとすると、チップの選択画面が出ます。

クレジットカードで支払いをしようとした時、画面にチップを1ドル、2ドル、それとも5ドルから選ぶように促す選択画面が表示されたのだ。

スターバックスの買い物客は長年、現金またはアプリでチップを支払うことができた。しかし、最近ではクレジットカードでの支払い時にもチップの選択画面が表示されるようになった。買い物客は、「チップなし」を選択する場合でも、この選択肢に答えなければ決済を完了できない。

出典:Should coffee at Starbucks require a tip? New prompt sparks misplaced outrage

米メディアのFortuneによると、スターバックスの”クレジットカード決済によるチップ機能”は、SBWU(スターバックス労働組合)が要求した事項の1つだといいます。

しかし、バリスタ(スタバの店員)からは「顧客にチップを渡すかどうか尋ねるのは気まずい」という声が上がっているとFox Businessは報じています

スターバックスのチップ選択画面は、店内注文では多くの人がこのサービスを喜んで利用していますが、ドライブスルーでもこのシステムが導入されたため、TikTokでは多くの顧客が「本当にチップを渡す必要があるのか​​」と議論する事態になっていると米メディアのThe Daily Dotは伝えています

スターバックスのチップ支払い機能に限らず、アメリカのチップ文化は「手に負えなくなっている」として、TikTokでは白熱した議論が起こっています

CNBCの料理レポーターであるコーリー・ミンツ氏は、チップの構造について以下のように述べています。

チップが店員の努力を反映するもの、あるいは感謝の気持ちを表すものだという考えは、歪曲されたものです。実際には、チップは社会的な礼儀としてほぼ必須であり、レストランはそれを悪用して、43州で州または連邦の最低賃金よりも低い時給でスタッフを雇っています。実際には、客はチップでその差額を補填しており、フルサービスのレストランではチップが収入の大部分を占めることもあります。つまり、チップは低価格という幻想を維持し、レストランが従業員の給与を低く抑えるための詐欺なのです。

出典:Should coffee at Starbucks require a tip? New prompt sparks misplaced outrage

2. チップの金額が増えている

アメリカでは全国的にチップの金額が増加傾向にあります

1950年代には、請求額の10%をチップとして支払うのが一般的でした。

1970年代から1980年代にはそれが15%にまで跳ね上がりました。

2023年、人々が支払うチップは請求額の15%から25%にまで上がっています。

これに加え、昨今の物価高により、チップの相場は以前よりも上がっています

一般的に、チップは商品やサービスの合計金額の一定割合に基づいて決まるため、商品やサービスの価格が上昇すると、チップの金額も当然増加します。

こうした現象は「チップ」と「インフレーション」を掛けて「チップフレーション」と呼ばれています。

英語では「Tipflation」と綴ります。

バンクレートのシニア業界アナリストであるテッド・ロスマン氏は、「チップは隠れた税金と化している」と指摘しています

3. コロナの流行

チップフレーションが起こっている背景には、2020年に発生した新型コロナウイルスの世界的な流行があります。

コロナ渦で感染リスクを負いながら働くサービス業従事者を応援する気持ちが、チップの相場上昇をけん引しました。

コラムニストのジーン・マークス氏はThe Guardianのコラムで、「大変な状況で仕事をしているサービス業従事者を応援したいという思いも(チップ文化の)事態を一段と深刻化させた」と述べています。

決済サービスを提供するSquareによると、パンデミックが始まる直前の2020年2月、特に飲食業界では、チップが支払われた決済の割合は43.4%でした。2023年2月にはその割合は74.5%となりました。

まとめ

アメリカではチップの相場が上昇し、さらにこれまではチップの支払いが不要だった場所でもチップを求められる「チップフレーション」が問題になっています。

多くのアメリカ人が自国のチップ文化は手に負えないものになっていると考え、チップ疲れを感じている人も多い様子。

チップはこれまでも度々問題になっていましたが、廃止には至りませんでした。

今後、アメリカのチップ文化はどうなるのでしょうか?まだまだ混乱は続きそうです。

参考